ホーム > 危機管理部 > 広報誌(リポート)の発行 > 26号

兵庫県立衛生研究所

衛研リポート

平成11年6月 第 26 号
Report of the Hyogo Prefectural Institute of Public Health


目次

ビタミンCと環境汚染

特集 鶏卵におけるサルモネラ汚染

調査研究紹介

平成9年度に残留基準が諮問された農薬の多成分一斉スクリーニング分析法への適用

水道水中の含臭素系トリハロメタンの生成機構について

研究所の動き

衛生研究所春季セミナーの報告

庁舎整備

兵庫県毒劇物検査マニュアル完成!

平成10年度購入主要機器

人事異動

淡路花博 ジャパンフローラ2000


ビタミンCと環境汚染

 ビタミンC(化学名アスコルビン酸)は壊血病を防ぐビタミンとしてよく知られています。多くの動物はビタミンCを体内で合成できるので、ビタミンCを必要とするのはヒト、サルおよびモルモットだけです。さらに、必要とする量が他のビタミンより圧倒的に多いこともビタミンCの特徴です。壊血病にならないためには1日10mgの摂取で充分ですが、わが国の成人のビタミンC所要量は1日50mgとされています。それは、ビタミンCには坑壊血病作用のみならず多種多様の作用があるためです。そのひとつが、環境汚染に対する作用です。
 環境汚染とビタミンCの関係については、環境問題がクローズアップされた1970年代から盛んに研究されてきました。今日までに毒性とビタミンCとの関係が明らかにされた汚染物質として、カドミウム、クロムなどの重金属、ベンゼン、クロロホルムなどの揮発性有機化合物、DDT、BHCなどの有機塩素系農薬、PCB、二酸化窒素およびオゾンなどの大気汚染物質が挙げられます。これらの物質は体内のビタミンCの消費を高め、ビタミンCの投与はそれらの毒性を軽減することが明らかにされています。わたしたちが行った動物実験では、汚染大気中にしばしば観測されるオゾン濃度で肺のビタミンCが減少すること、ビタミンCの投与はオゾン暴露による肺の障害を軽減することが明らかになりました。
 喫煙者の体内ビタミンCレベルが低いことはよく知られており、喫煙者のみならず受動喫煙者にとっても、たばこ煙は体内ビタミンCレベルに影響を与える汚染物質ということができます。
 では、わが国のビタミンC所要量で多種多様な環境汚染に対応できるのでしょうか。ビタミンC所要量は体内貯留量および代謝回転率から算出されており、環境汚染および喫煙以外に飲酒、薬物の摂取、ストレスなど体内ビタミンCレベルに影響する要因については、個々の要因の付加量を算定するのは困難であり、留意点としてあげるにとどめるとされています。これらの要因のなかで、喫煙以外に現実の環境汚染がどの程度体内ビタミンCに影響するのかはほとんど分かっていません。ビタミンCの構造図
平成9年の厚生省の国民栄養調査によりますと、ビタミンC摂取量の平均値は135mgで所要量の2.7倍となっており、調理損失を割り引いても所要量を充分満たしています。しかし血清のビタミンC濃度からみて、ビタミンC不足状態の人が少なからず存在することが判明しており、わたしたちの農村住民を対象とした調査でも、男子の高齢者で10%を越える人がビタミンC不足となっています。
 これらのことから、現実の環境汚染のビタミンCへの影響の程度は不明であっても、ビタミンCはもっと摂取する必要があるという結論になります。米国ではすでに、喫煙者のビタミンC所要量を高く設定しています。ビタミンCは、ビタミン剤から一度に多量摂取するよりも食物から摂取するほうが、体内のビタミンCレベルを長く高く保つことができることはいうまでもありません。野菜や果物をもっと食べて、環境汚染に強くなりましょう。
(環境保健部 深瀬治)


特集
鶏卵におけるサルモネラ汚染

 日本人が生卵を食べ始めたのは、江戸時代天明の頃といわれています。このように古くから生卵は安全で栄養価の高い食品として、食文化の中で育まれ食されてきました。これに水を差すようなことが起こりました。卵がサルモネラに汚染されているというのです。欧米諸国では、1985年頃「卵およびその加工品」によるサルモネラ・エンテリティディス(腸炎菌、ゲルトネル菌ともいいます。以下SEと略します)食中毒が急増しました。
 我国では1988年に錦糸卵による患者数10,476名という最大規模のサルモネラ・チフィムリウム(ネズミチフス菌)食中毒が発生し、翌年には突如としてSEによる食中毒が多発しました。例年の2倍近く増えたのです。1992年にはそれまで食中毒事件数の中で首位を占めてきた腸炎ビブリオを抜いて1位になりました。サルモネラ食中毒患者数の約80%以上がSEによるもので、死者もでています。食品は即納豆やババロア、アイスクリーム、ティラミス、シュークリーム、ポテトサラダ、マヨネーズなどで、その多くは卵を使用したものによるものでした。マスコミが卵のサルモネラ汚染を報じたことにより社会問題となり、ホテルや旅館、レストランのメニューから生卵が消えてしまいました。すき焼きや朝食に生卵を出さなくなってしまったのです。それでも生卵がほしいという人のために蒸気消毒を施して提供するところまで現れました。卵で食中毒を出しては、由緒ある老舗の暖簾に傷がつくための自衛手段なのです。
 鶏卵のサルモネラ汚染は、卵殻内部で、1万個に1個から20個といわれています。SE感染鶏でも産卵される全ての卵にSEが移行するものではなく、一部に低頻度で汚染が見られるのにすぎないのです。また産卵能力のおちた鶏を断餌させて産卵能力を回復させる強制換羽などのストレスを与えると排菌頻度が増すといわれています。我国における年間の鶏卵生産量は約250万トンで、そのうち約50%が殼付卵の形で一般家庭に流れ、約30%がレストラン、ホテル、給食施設などで使われる業務用の箱玉に、また残りの約20%が液卵として加工用に消費されていると推定されています。
 SE食中毒は、食品を十分に加熱すれば避けられます。ヒトでは、6〜48時間の潜伏期の後、発熱や腹痛、下痢などの症状を伴い、重症の場合は入院治療が必要です。鶏の初生ヒナでは、時には死にますが、成鶏では無症状のままで保菌状態になります。SEは組織内への侵襲性が強く、SEに感染した鶏では菌が卵巣、卵管へ到達し介卵感染を起こします。つまり親鶏、卵、ヒナ鶏へと感染が広がっていくのです。卵内への菌の浸入は、体内で殼をかぶる前に、卵黄を汚染する場合(卵殻形成前)と糞便などにより殻表面に付着した菌が卵殻の気孔または亀裂などを通じて内部に浸入する場合(卵殻形成後)の2経路が考えられます。常温に長く置くと菌は増え、ついには腐敗を起こす場合があります。現在、一般家庭用のパック卵には賞味期限を表示することになっています。卵白にはリゾチームなどの抗菌性物質が含まれていますが、サルモネラには効果がありません。サルモネラの中でSEは比較的熱に抵抗性があります。サルモネラ・エンテリティディスの電子顕微鏡写真
  55℃で90%の菌を死滅させるまでの時間は、1個の卵の卵黄と卵白を混ぜたもので6分です。ゆで卵では7分間以上沸騰させないと死滅しません。卵を冷蔵庫から出して直ぐに沸騰水で4分間ゆでたとしても、その卵黄の温度は28℃にしか達しません。
 SEの汚染防止は原種鶏の輸入時に水際でチェックして陽性ヒナを排除することと、養鶏場の衛生管理を徹底することにあります。また鶏の予防ワクチンも開発されいくつかの試みが報告されています。
(微生物部 島田邦夫)

(サルモネラ・エンテリティディスの電子顕微鏡写真)


調査研究紹介
平成9年度に残留基準が諮問された農薬の多成分一斉スクリーニング分析法への適用

年報第33号より
食品薬品部 秋山由美 吉岡直樹 辻正彦


 厚生省は平成5年以降、それまで26種の農薬で規制していた農産物中の残留農薬基準を今世紀中に200農薬に拡大することを目標にして作業を進めています。 平成10年3月現在で、161種農薬に基準を設定し、さらに34種について審議しています。
 筆者らは毎年増大する規制対象農薬に迅速に対応するため、GC/MSによる多成分一斉スクリーニング分析法を開発し、その適用範囲を順次拡大することで対応してきました。
 平成9年9月に、食品衛生調査会へ諮問され、平成10年中に基準の告示が見込まれる20農薬を中心に、一斉分析法への適用性について検討しました。
 20農薬中には、GC/MS分析時に分解して複数のピークを生じる尿素系農薬と農薬抽出時に植物成分等との反応で速やかに分解してしまう農薬とがあり、これらを除いた12農薬と、別に検討した3農薬を加えた15農薬に多成分一斉スクリーニング分析法が適用できました。
 その結果、平成10年度の残留農薬検査の分析対象物質は189種農薬と23種代謝物に増加しました。
 新たに測定可能となった農薬は、アラクロール、ビフェントリン、カフェンストロール、クロルフェナピル、シハロホップブチル、ジメテナミド、ホルペット、フラメトピル、フルジオキソニル、ピリブチカルブ、ピリミノバックメチル、トリフルラリン、ピリミジフェン、メパニピリム代謝物、キントゼンです。


水道水中の含臭素系トリハロメタンの生成機構について

Water Research 33巻 2号 477〜483(1999)より
生活環境部 市橋啓子 寺西清


 塩素で滅菌された水道水では水道原水の有機物(フミン酸等)からトリハロメタンが生成します。トリハロメタンはクロロホルムと3つの含臭素系トリハロメタン(ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタンおよびブロモホルム)の4つの揮発性有機塩素化合物を言います。ブロモジクロロメタンの発がん性はクロロホルムより高く、ジブロモクロロメタンおよびブロモホルムは人の肝組織への障害が大きいとされています。県内の水道水1,940件の調査ではクロロホルムとほぼ同量の含臭素系トリハロメタンが検出されています。従って、総トリハロメタンの人への健康障害を考えるとき、含臭素系トリハロメタンはクロロホルムと同じ程度の影響を持っていることが分かり、その生成機構について調べました。実験では滅菌用塩素として次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸ナトリウムを用いて市販のフミン酸からトリハロメタンの生成を検討しました。その結果、次亜塩素酸イオンによってフミン酸はトリハロメタン生成への遷移状態が誘発され、引き続くハロゲン置換反応は次亜塩素酸と次亜臭素酸との競争反応となっています。この競争反応では次亜臭素酸が次亜塩素酸より10倍近くも速いことが分かりました。すなわち、水中の臭素イオンが塩素によって有機物と反応し易い次亜臭素酸のかたちとなって有機物と反応し、水道水中に含臭素系トリハロメメタンが生成すると考えられました。


研究所の動き
衛生研究所春季セミナーの報告

セミナー風景

 平成10年度兵庫県立衛生研究所セミナーが、平成11年3月12日、兵庫県職員会館で開催されました。当所の研究員による4題の研究発表の後、疫学情報部 鳥橋義和部長の「疫学情報部の調査研−在職9年間を振り返って−」と題して特別講演が行われました。
 またパネルディスカッションのセッションでは、現在、社会的問題になっている再興感染症である結核をとりあげ、平成10年度から開始された結核対策モデル事業の取り組みについて4名のパネリスト(2保健所、疫学情報部、微生物部)から、それぞれの立場で提案と報告がなされました。
 県庁や保健所などの関係機関から145名が出席され、活発な討論のうちに幕を閉じました。


[庁舎整備]

車イス用の昇降機

 兵庫県では、“人間サイズのまちづくり”を理念として、安心かつ安全に暮らせるまちづくりを進めています。県立衛生研究所においてもバリアフリー化を目指し、3月に車イス用の昇降機と身体障害者用トイレを設置しました。

(写真は車イス用昇降機)


兵庫県毒劇物検査マニュアル完成!

 厚生省が全国の保健所に配布した迅速検査キットを実際に使用する時の注意点や検査結果の判定の仕方を記したマニュアルを発行しました。本文の内容は当研究所ホームページでも見ることができます。
(問い合わせ先:生活環境部 寺西)


〔平成10年度購入主要機器〕

  • 電子顕微鏡及び画像記録システム(H-7500)
  • 自動溶出試験装置(RT-3Std)
  • DNAシーケンサー(ABI・PRISM310-20)
  • ガスクロマトグラフ(GC17A-FID)
  • ガスクロマトグラフ(GC17A-MSD)
  • 高速液体クロマトグラフ(島津LC-VPシステム)
  • 分光光度計(V-550DS)
  • 原子吸光分光光度計(AA-6200)
  • マイクロウープ分解装置(Model 7295)

〔人事異動〕平成11年4月1日付

鳥橋義和 退職(3月31日付)
田中秀樹 疫学情報部長
寺西清 生活環境部長
畑中久勝 生活環境部次長
西海弘城 研究員(転入)


ジャパンフローラ2000
ジャパンフローラ2000のホームページ




インターネットで、衛生研究所に関する情報や衛研リポート(No.18号〜)を入手できます。


(※ホームページアドレスが変更になりました)
URL http://www.iph.pref.hyogo.jp/


発行 兵庫県立衛生研究所 TEL(078)511-6581 FAX(078)531-7080
〒652-0032神戸市兵庫区荒田町2丁目1番29号

衛研リポートでは皆様からのご意見、ご質問をお待ちしております。
ご質問にはQ&Aで取上げ、回答させていただきます。