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兵庫県立衛生研究所

衛研リポート

平成11年2月 第 25 号
Report of the Hyogo Prefectural Institute of Public Health


目次

感染症対策に関する新しい法律

特集 内分泌掻乱化学物質(環境ホルモン)への対応

調査研究紹介

生体内過酸化脂質に及ぼす食餌中ビタミンC,Eおよびアルコール摂取の影響について

−遺伝性ビタミンC合成不能ラットにおける検討−

感染症サーベイランス患者発生予測モデルの検討

研究所の動き <年報第33号>3月発刊

平成10年度研究発表会開催のお知らせ

《Q&A》キシリトールとは?


感染症対策に関する新しい法律

 わが国では、医学・医療の進歩、公衆衛生水準の向上、国民の衛生意識の向上などによって多くの感染症が克服されてきましたが、一方では、新たな感染症(新興感染症)の出現や、ほとんど制圧されたと考えられていた感染症の増加(再興感染症)が起こってきました。また、国際交通手段の発達によって、世界各地で発生した感染力の強い危険な感染症が短時間のうちに国内に持ち込まれる(輸入感染症)可能性も高くなってきました。
  このような感染症をとりまく状況の大きな変化のために、伝染病予防法(明治30年制定)に基づいて行われてきた感染症対策の再構築が求められていました。また、らい患者などに対してなされたような差別や偏見を防止して感染症の患者の人権を尊重する必要性も指摘されていました。このため、伝染病予防法にかわる新しい法律として、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症新法」と略記します)が制定され、平成11年4月1日に施行されることになりました。なお、これに伴って、エイズ予防法および性病予防法も廃止されます。
 感染症新法のもっとも主要な目的は、感染症の発生とまん延を防止し、かつ、患者の人権を尊重することです。その目的を達成するために、@国と地方自治体は、感染症に関する正しい知識の普及および情報の収集・提供を行い、感染症についての研究を推進させ、また、感染症の患者が質の高い適切な医療を受けられるような措置を講ずること、A国民は、感染症に対する正しい知識を持ち、その予防に心がけるとともに、患者の人権を尊重しなければならないこと、B医師などの医療関係者は、感染症予防のための施策に協力し、患者に対して質の高い適切な医療を提供することなどが責務として定められています。
 感染症新法では、主な感染症を、その病原体の感染力の強さと症状の重さなどから、一類〜四類感染症に類型しています。四類感染症として58感染症が定められ、インフルエンザ、性感染症などの他、伝染病予防法で法定伝染病と定められている発疹チフス、日本脳炎、しょう紅熱、流行性脳脊髄膜炎も含まれています。この他に、危険性の高い感染症への応急対応的な類型として指定感染症、新感染症があります。
 一類および二類感染症の患者への対応は、それぞれ、「原則入院」および「状況に応じて入院」ですが、強制的な“隔離”ではなく、患者の意志に基づいて入院を促す勧告制度が導入されています。
三類感染症であるO-157感染症の患者に対しては、これまでどおり、特定職種への就業が制限されます。四類感染症については、その発生や拡大を防止するために、発生状況などの情報を国民に提供することになっています。
(微生物部 増田邦義)


一類〜三類感染症

一類感染症 ペスト、エボラ出血熟、マールブルグ熱、クリミア・コンゴ熱、ラッサ熱
二類感染症 腸チフス、パラチフス、ジフテリア、コレラ、細菌性赤痢、ポリオ
三類感染症 腸管出血性大腸菌(O-157)感染症

特集
内分泌掻乱化学物質(環境ホルモン)への対応

 環境ホルモン問題は、科学的推理小説「奪われし未来」が出版されて以来、米フロリダ州で起きている雄ワニのペニスの倭小化等が野生生物に起こっている異常現象や、男性の精子数減少などの衝撃的な内容がテレビ放映されて急に注目されるようになりました。
  現在、厚生省、環境庁をはじめとする関係省庁は互いに連携して内分泌撹乱作用の疑われる物質について調査を始めたところです。環境庁は昨年末に全国の公共用水域および地下水、計130地点の平成10年度夏期モニタリング結果を公表しました。
  調査した24物質の中でノニルフェノールが調査地点の76%の地点で、ビスフェノールAが68%、4-t-オクチルフェノールが62%、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)が55%の地点でppbオーダーの濃度で検出されています。また、人畜由来の女性ホルモンの17-β-エストラジオールも61%の地点で検出されています。しかし、内分泌撹乱作用の強弱や、そのメカニズムが十分に解明されていないため、その影響は評価されていません。
  環境ホルモン物質の食品摂取等による暴露量については、現在、国立研究機関や地方衛生研究所等で検査項目などを分担して調査が開始されています。

厚生省
主として人体影響の観点から
人の暴露実態調査・作用メカニズムの解明
人に対する健康影響調査
内分泌撹乱作用の毒性評価法の確立
環境庁
主として環境保全の立場から
環境汚染、野生生物影響等調査
環境汚染を通じたリスク評価
農薬の生殖毒性試験法の開発等

 リストに載せられた内分泌撹乱作用の疑いがある約70物質の中には、毒性が強く、環境に蓄積しやすいため既に製造中止になった物質と、フェノール類、可塑剤、農薬のように工業的に重要な物質も多数含まれています。
  人体に対する作用については、ベトナム戦争の枯葉剤作戦でダイオキシン暴露を受けた退役軍人らの疫学調査事例や、合成エストロゲン製剤DESの女性への投与による症例研究がありますが、他の化学物質の人への影響については現在までのところ殆ど解明されていません。
  化学物質の毒性試験では、ダイオキシンの毒性評価を例にとれば、1970年代初期に既にその強毒性が指摘されていましたが、現在でも研究が継続されています。1998年には、人に近いアカゲザルを使った動物実験結果を基にして、これまでより厳しいダイオキシンの耐容1日摂取量がWHOから勧告されました。このように化学物資の毒性評価は時間とともに、多くの実験動物の犠牲と費用のかかるものです。
  昨年12月、京都で開催された内分泌撹乱化学物質に関する国際シンポジウムに来日された「奪われし未来」の著者の一人Myers博士は、一般市民向け講演の中で、内分泌撹乱化学物質から身を守る方法は、野生生物に起こっている異変を直視することで人への影響を推定し、不確実ではあるが自分自身の判断で摂取量を押さえるなど具体的方策を実施することであると示唆されました。また同時に行政に対しても、メーカの製品情報を公表させるなど、消費者の知る権利を保障するような政策が重要だと強調されました。
(食品薬品部 辻正彦)


調査研究紹介
生体内過酸化脂質に及ぼす食餌中ビタミンC,Eおよびアルコール摂取の影響について
−遺伝性ビタミンC合成不能ラットにおける検討−

年報第32号より
環境保健部 荒木万嘉 藤原月美 後藤操
山本昭夫 深瀬治


 生体内過酸化脂質に及ぼす食餌中ビタミンC(VC)、ビタミンE(VE)およびそれらの相互作用とアルコール摂取の影響について検討するため、通常のラットと異なり体内でVCを合成できない6週齢(雄)の遺伝性VC合成不能ラットを用いて実験しました。
  実験群は、@VC低濃度・VE添加飼料、AVC高濃度・VE添加飼料および BVC低濃度・VE無添加飼料、CVC高濃度・VE無添加飼料の4実験食のそれぞれ一定量と水(飲料水群)または10%アルコール水(アルコール群)を自由に摂取させた8群です。実験期間は6週間で、次の結果が得られました。
  血清および肝の過酸化脂質濃度に対する食餌中VC濃度差の影響はいずれの実験群にもみられませんでした。飲料水群およびアルコール群ともにVE無添加食群ではVE添加食群に比べて血清、肝の過酸化脂質が有意に高くなりました。さらに血清の過酸化脂質は、VE無添加食のアルコール群が飲料水群の場合に比べてより高くなる傾向がみられました。しかし肝の過酸化脂質にはこの傾向はみられませんでした。 VCによるVE再生作用は今回の実験ではみられず、アルコール群でみられた血清過酸化脂質の増加傾向は食餌中VC濃度を高めても抑制することはできませんでした。また飲料水群に比べてアルコール群に肝のVE低下傾向がみられました。これらの実験から飲酒時には過酸化脂質の生成を抑制するためにVEの十分な摂取が必要と考えられます。


感染症サーベイランス患者発生予測モデルの検討

年報第33号より
疫学情報部 沖典男 山本昭夫 鳥橋義和
環境保健部 後藤操


 エボラ出血熱や腸管出血性大腸菌O-157感染症などの出現により、感染症対策は新たな時代へと進んでいます。手足口病の実測値と予測値の比較感染症サーベイランスは、地域における感染症の患者情報を迅速に収集・解析・還元することによって、適切な予防措置を講じ、流行を未然に防止することを目的として昭和62年以降コンピュータ・オンラインで運用されてきました。平成11年4月から新たな法体系の下に、現システムをさらに改善した形で運営されることとなります。
  感染症サーベイランスの上記目的を達成するには流行の予測が必要と考えられます。このため、疫学情報部では、感染症サーベイランス患者発生変動の予測モデルを検討しました。ここでは患者の発生変動を気象、流行周期、観測時点より数週間前の患者数の増減傾向で段階的に説明する統計モデルを考案し、流行がしばしば問題となる手足口病など4疾病に適用しました。図は手足口病の例です。観測時点より3週前の最高気温と、2年前および3年前、3週前、6週前の患者数を用いた予測式の寄与率は、81%と極めて良好でした。


研究所の動き《年報第33号》3月発刊

 兵庫県立衛生研究所年報第33号(1998年度版)を刊行します。
  当年報は、業務編と研究報告編を1冊にまとめ、調査研究・試験検査の概要ほか、研究編には、外部学識経験者の審査を受け、受理された論文を掲載しています。
  なお、これらの情報は、当所ホームページの《研究所の出版物》の「研究報告」画面のクリックによって、年報第29号(1994)より、研究報告のタイトル情報を見ることができます。同様に「衛研リポート」も第18号(平成9年2月)より第24号(平成10年12月)までの全紙面をインターネットで入手できます。
アドレス(URL)
http://www.hyogo-iic.ne.jp/~iph/


◆平成10年度研究発表会開催のお知らせ◆

平成10年度衛生研究所研究発表会を下記のとおり開催します。
ご参加をお待ちしております。


日時 平成11年3月12目(金)13:OO〜16:30
場所 神戸市中央区下山手通4丁目18番2号
    兵庫県職員会館1Fホール
内容
研究発表(13:00〜14:25)
 @新たに開発したPCR法を利用したアデノウイルスの迅速同定ついて
 A室内および居住者のホルムアルデヒド暴露状況調査
 B畜水産食品の残留医薬品試験
  −オキシテトラサイクリン検出事例を中心に−
 C水道水中の含臭素系トリハロメタンの生成機構について
特別講演(14:35〜14:55)
 疫学情報部の調査研究について −在職9年間を振り返って−
 疫学情報部 鳥橋義和
パネルディスカッション(15:00〜16:30)
 平成10年度結核対策モデル事業の取り組みについて
 宝塚保健所・洲本保健所・津名保健所・三原保健所
 衛生研究所疫学情報部・微生物部


Q&A キシリトールとは?

 キシリトールとは、天然に見出される5炭糖の糖アルコールのことであり、イチゴやベリー類、カリフラワーなどの野菜や果実に少量含まれています。この物質はショ糖(砂糖)と同程度の甘味度を持っていますが、ショ糖に比べて低カロリーであり、しかも虫歯の原因となる連鎖球菌や酸生成菌に栄養素として利用されないという特徴があります。
  工業的には植物から得られるキシロースを原料として、高温・高圧化での水素添加法により製造されています。わが国では平成9年に食品添加物に指定され、虫歯にならない甘味料として、チューインガム、キャンデー、チョコレートなどに広く使用されています。




発行 兵庫県立衛生研究所 TEL(078)511-6581 FAX(078)531-7080
〒652-0032神戸市兵庫区荒田町2丁目1番29号

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