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兵庫県立衛生研究所

衛研リポート

平成10年12月 第 24 号
Report of the Hyogo Prefectural Institute of Public Health


目次

制圧されない日本の結核

特集 呼気分析

調査研究紹介

ヒト血球アセチルコリンエステラーゼを用いた農薬検出法に関する基礎的検討

輸入食品より検出された法定外酸化防止剤(TBHQ)

研究所の動き

兵庫県立衛生研究所ホームページをよろしく

秋の衛研セミナーの報告


制圧されない日本の結核

 戦前・戦後、国民病といわれ年間5万人以上の死亡者と50万人以上の患者を発生した結核は、生活環境の向上、医療の進歩、結核予防法の整備に基づく対策によって蔓延状況を克服しました。
  1950年代以前の蔓延時代の罹患率(人口10万人当たり500人以上)は、1960年代から1970年代後半まで年約11%の速度で減少してきましたが、1970年代後半から1990年代前半まで年約3%で減少し、その後さらに鈍化の傾向を示しています。
  1990年代の罹患率は34〜42で先進国の4倍以上となっており、決して結核の少ない国とはいえません。
  一方、世界の結核は、年間800万人以上の患者が発症し、300万以上が死亡していると推定されています。そのうち、発症と死亡の95%以上は開発途上国となっており、今後さらに増え続ける傾向にあります。開発途上国の結核は、低い生活水準と一部地域でのHIV患者の増加、さらに爆発的な人口増加が要因となっています。主要先進国の発生原因は、HIV患者や多剤耐性菌患者、途上国からの移住者となっています。このような世界の結核の蔓延状況に対して、世界保健機関は、1993年結核非常事態宣言を発しました。
  日本では1991年、先進国と同様に「2030年代に結核根絶」することを当面の目標として、「2000年までに結核罹患率10万人に対し20以下」にする目標を掲げました。1995年、結核予防会結核研究所の大森氏は1983〜1992年の10年間の罹患率のデータから2000年における罹患率を30.8と予測していますが、目標値の達成には1993年から罹患率の減少速度を年8.1%にしなければなりません。また本年9月末に報道された1997年の罹患率33.9は43年ぶりに前年の罹患率33.7を上回り、2000年までの達成は絶望的となっています。結核罹患率の推移
 また、最近の患者発生の特徴は、急速な高齢化と蔓延時代に感染し、その後30年以上経過した後、加齢に伴い免疫力の低下のために発症する中高年齢層患者(60歳以上で50%、50歳以上で70%)と戦後生まれでほとんど感染を受けず、一度感染すると発症しやすい若い年代(特に医療従事者などの集団感染など)の2つのリスク集団が混在しています。前者の中高年齢層は何らかの基礎疾患を持っていることが多いため、受診の遅れは重症化と死亡につながります。
  結核対策は予防・早期発見・早期治療が基本です。結核は必ず治癒できる病気にもかかわらず「結核は過去の病気である」という認識のために、受診や診断の遅れによる患者発見の遅れが結核根絶の最大の障害になっています。
  さて、1997年の兵庫県の罹患率50.1は、2年連続して前年度を上回り、1996年の全国ワースト3位から2位となりました。結核対策モデル事業など県下保健所で実施する地域結核対策にご協力をお願いします。
(疫学情報部 鳥橋義和)


特集
呼気分析

 脂質が酸化されて生成する過酸化脂質は、それ自体有害であるばかりでなく、がんなどの疾患や老化と関連のあることが指摘され、今やあらゆる健康事象に過酸化脂質が何らかの関わりを持っているといわれています。体内の過酸化脂質レベルは、重要な健康指標になり得ると考えられますが、一般住民を対象とした調査研究はほとんど行われていません。
  呼気分析法は、過酸化脂質の分解産物であるエタンやペンタンなどの炭化水素が呼気中に排出されることを利用した過酸化脂質測定法です。この方法は、呼気を用いるため採血などを必要としないこと、経時変化がつかめること、全身的な過酸化脂質レベルを把握できることなどの特徴があり、フィールド調査に適用できると考えられます。
  環境保健部では、子どもの健康に関する調査研究の一環として、都市、漁村および農村地区の小学校高学年児童384名ならびに当衛生研究所職員35名を対象に呼気分析を実施しました。呼気の採取は、写真に示す装置を用いて行いました。被験者に一方通行の吸入弁と排出弁を備えたフェイスマスクを設置し、炭化水素を含まない超高純度空気を吸入させたときの呼気を採取しました。ただし始めの4分は呼吸器の洗浄時間とし、4分経過後の呼気を採取しました。 
呼気採取風景 呼気の炭化水素は、ドライアイス冷却した吸着カラムに吸着させた後オーブンで加熱して脱着し、ガスクロマトグラフ分析を行いました。
児童の呼気中エタンおよびペンタン濃度分布は高濃度域に裾を引く分布で、幾何平均値はそれぞれ16pmol/Lおよび15pmol/Lでした。個人差が大きく、また日差変動もありました。男女による差はみられませんでしたが、地区差がみられ、特にペンタンが顕著で農村地区が高値を示しました。
 当所職員の呼気中エタンおよびペンタン濃度幾何平均値は、喫煙者でそれぞれ90pmol/Lおよび21pmol/L、非喫煙者でそれぞれ32pmol/Lおよび13pmol/Lと、喫煙者のエタンが高い値を示しました。児童の値を文献値および当所職員の値を大人の文献値と比較すると、農村地区のペンタン以外は大人の値より低いと考えられました。児童の農村地区のペンタン濃度が高かった原因として考えられるのは、呼気採取場所の室内空気から呼気とほぼ同じ濃度オーダーの炭化水素が検出され、農村地区が高値を示しました。呼気分析で最も問題になるのは環境外気の影響であり、一般に数分間の呼吸器の洗浄が行われています。本調査でも同様の洗浄を行いましたが、ペンタンの影響は除けないことが判明しました。(年報33号に掲載予定)
  呼気分析法は、過酸化脂質測定法のなかで比較的新しい方法で、人を対象としたデータは多くなく、また報告されているデータには大きなばらつきがみられます。本法は、環境外気などばらつきの要因についてさらに検討する必要があると考えられます。
(環境保健部 深瀬治)


調査研究紹介
ヒト血球アセチルコリンエステラーゼを用いた農薬検出法に関する基礎的検討

水環境学会誌 第20巻 P797-802(1997)より
生活環境部 巻幡希子 川元達彦 寺西清


 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)は、神経興奮伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素で、有機リン系農薬やカーバメート系農薬により、その活性が阻害されます。これらの農薬は、この酵素を阻害することによって、殺虫効果を有するが、人畜に対しても同様の機序で作用するため人体への農薬暴露の指標とされています。血球膜のAChEは血清中の偽AChEと違って、神経組織のAChEと同一であることから、ヒト血球を利用して農薬検出のバイオアッセイ系を検討しました。
  有機リン系農薬33種類、そのオキソン体8種類、カーバメート系12種類の計53種類の農薬についてこのバイオアッセイ系での検出下限値を検討しました。1mg/L以下の濃度で検出できた農薬は、有機リン系19種類、そのオキソン体7種類、カーバメート系が12種類で、さらにその濃度の1万分の1に当たる100ng/Lでも検出できた農薬は、ベンフラカルブ、エディフェンホス、クロルピリポスオキソン、イソキサチオンオキソン、ダイアジノンオキソンの5種類でした。また浄水過程で添加される塩素濃度と同レベルの1mg/Lの塩素処理をすることによって、13種類の農薬が100ng/Lの低レベルまで検出可能となりました。この結果から、ヒト血球コリンエステラーゼ活性阻害を指標としたバイオアッセイ系は、環境中の農薬のモニタリング法としての可能性が高いことが明らかになりました。


輸入食品より検出された法定外酸化防止剤

年報第32号より
食品薬品部 畑中久勝 秋山由美


 油脂の酸化防止剤のTBHQ(tert-Buty1hydro-quinone)は、アメリカなど10数カ国で使用が許可されていますが、日本では許可されていません。急増する輸入食品にTBHQが誤って使用される可能性があり、兵庫県では平成3年度からTBHQの検査を実施しています。
法定外の酸化防止剤 TBHQの構造式   平成8年度の検査では、3試料からTBHQを検出しました。関係行政機関を通じて生産国等に原因究明をした結果、TBHQの使用が許可されているアメリカ、EU諸国向けの製品が誤って日本へ出荷されてしまったものが1件と、残りの2件は、TBHQを使用した原料(食用油脂等)を使用したために、これを用いて製造した食品に持ち込まれたこと(キャリーオーバー)が判明しました。
 食品中のTBHQは、カラム条件を変えてHPLCで測定する方法とGC/MS分析のマススヘクトルによって確認しました。また、GC/MS分析では、TBHQの酸化体のピーク(2,5-cyclohexadiene -1,4 -dione,2- (1,1-dimethyethyl)も検出されました。


研究所の動き
兵庫県立衛生研究所ホームページをよろしく

 本年6月末にホームページ作成委員会を設置し、約1ケ月間で手作りのホームページを8月に立ち上げました。
 内容は、兵庫県立衛生研究所の紹介、各部門の紹介、トピックス(主に感染症情報)、出版物の紹介(衛研レポートの全文、研究報告書のタイトル)から成っています。
http://www.hyogo-iic.ne.jp/~iph/


秋の衛研セミナーの報告

 11月10日、兵庫県立衛生研究所セミナーが、近畿地方の各研究機関、保健所、水道事業所等から130名の出席のもとで開催されました。当所の研究員による4題の研究発表の後、大阪大学大学院薬学研究科教授 西原力先生の「内分泌撹乱物質の現状と課題」と題する特別講演が行われました。
  内分泌撹乱物質は、現在最も人々の関心を集めている問題であり、参加者も真剣に耳を傾けていました。講演では、1962年に出版された「沈黙の春」(レイテェルカーソン著)以後の重要な「科学的推理小説」である「奪われし未来」の評価から始まりました。化学物質が与えるホルモン作用への影響を検定する方法や、現時点で明らかに内分泌を撹乱する物質と、まだ明らかにされていない物質などについて分かりやすく講演されました。
  講演後は、参加者から多数の質問の手が挙がり演者とのやりとりが活発に行われ、予定時間が過ぎてもなお質問の手が挙がるほど盛況でした。
  最後に座長は「奪われし未来」の序文に寄稿したゴア副大統領の「私たち一人一人は、知る権利と同時に学ぶ義務もある」との言葉を強調され、セミナーを終了しました。




発行 兵庫県立衛生研究所 TEL(078)511-6581 FAX(078)531-7080
〒652-0032神戸市兵庫区荒田町2丁目1番29号

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