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兵庫県立衛生研究所

衛研リポート

平成10年6月 第 23 号
Report of the Hyogo Prefectural Institute of Public Health


目次

環境中の化学物質

特集 淡水性アオコの毒素

調査研究紹介

マウスにおける肺のビタミンCレベルとオゾン暴露の影響との関係について

水系腸管病原性原虫Criptosporidium parvumの検査法の検討

研究所の動き <微生物部>

Q&A 温泉とは?

人事異動


環境中の化学物質

 地球上に存在する化学物質の種類や量は正確に確認できませんが、平成10年6月の時点で1972万種類の化学物質がCAS(Chemical Abstract Service)に登録され、その存在が確認されています。日本では約3万種類の化学物質が生産され、さらに毎年約千種類の化学物質が新たに合成されています。
 ヒトを含む生物は、地球誕生から46億年にわたって作り上げた環境の中で適応してきました。しかし、最近の50年間弱で自然には存在しない人工的に合成された化学物質が環境中に急増しました。これらの化学物質はヒトを中心に利便性、快適性、有効性を重視したもので、環境や生息生物に対して大きなインパクトを与え続けています。
 殺虫剤のDDT、熱媒体のフロンやPCB、船底塗料の有機スズなどの合成化学物質などは、その用途からみて化学的に安定で、容易に分解しません。これら多くの難分解性の合成化学物質は、微量でも一旦環境に排出されると大気・水や土壌に蓄積され、図のように食物や飲料水を通して生物へと移行していきます。
環境中のDDTの拡散と生物濃縮  何億年、何十億年にわたって作り上げた環境生息生物の組織機能では、ある種の合成化学物質に対して代謝作用が有効に働かず、化学物質は各組織へ蓄積し、機能障害の原因となります。最近、新たにマスコミを賑わしているものに環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)があります。この物質は生殖機能障害や精子の減少など、生物の存続に言及されています。現在日本ではダイオキシン、PCB、プラスチック原材料など67種類がリストアップされていますが、前述のように日本でも使用化学物質は3万種類を越えており、それらを詳細に調べると何百、何千種類になる可能性があります。
 現時点での先進国の取り組み状況では、アメリカは10万種類に及ぶ化学物質のふるい分け作業を行い、英国は疑わしい化学物質の使用中止を含めた対応を産業界に求めています。日本でも、厚生省や環境庁が本年4月から本格的に環境ホルモンの調査を始めました。しかし極微量の化学物質の人体有害性を証明することは大変難しいことなのです。ヒトや生物体に内分泌撹乱現象が表れることを解明するには化学物質の種類、濃度、摂取量・期間などの検討が今後重大な課題になります。
 これまで、私たちは生活の快適さを高める科学技術の開発に主眼を置いてきました。大量生産と大量廃棄では環境は化学物質で汚染され、食物連鎖を通してその最上位に位置するヒトが、他のどの生物よりも強く影響を受けることを認識する必要があります。


図 環境中のDDTの拡散と生物濃縮
(日本化学会編:化学生態学の展望を参照)
(生活環境部 田中英樹)


特集
淡水性アオコの毒素

<淡水性のアオコとは>
 気温が高くなると湖やダム湖などで藻類が目に見えるほど大量に発生します。この現象をアオコが発生したと言います。この原因となる藻類の種類は多くあるのですが、主に藍藻類です。これらは光合成をする細菌でシアノバクテリアと呼ばれています。世界的にアオコの原因となっているのはミクロキスティスと呼ばれるシアノバクテリアです。このミクロキスティスは群体(ブルーム)を形成し水面に大きな塊となって広がっていきます。
<ミクロキスティスの毒>
 このアオコは毒を生産するので、この水を飲んだ牛や馬が死亡するという事件は古くから知られておりました。しかし、この毒の化学構造が解明されたのは、1980年代に入ってからです。
 人に対する障害を示した事件はオーストラリアの小さな島で1979年に起こりました。シアノバクテリアが繁殖した水を原水として利用した140人が肝細胞障害の為に入院治療が必要となりました。1996年にブラジルのカルアルーにある血液透析センターで発生した事件は、ミクロキスティスというアオコをクローズアップしました。このセンターで塩素処理をせず独自に精製した水を利用して透析した患者136人の内117人が嘔吐、筋肉の弛緩、肝臓障害を経験したとの報告があります。このセンターが用いた水を調べると、ミクロキスティスが産生する毒素の一つミクロキスチン-LRがクロマトグラフィーで検出され、ミクロキスティスによる中毒の疑いが強まっています。ミクロキスティスが産生する毒素は4種類あるのですが、特に毒性の強いのはミクロキスチン-LRです。最近、WHOはこれまでの毒性試験をまとめて、この毒素の耐容一日摂取量(TDI)を 0.04μg/kg/日 と設定しました。同時に水道水質の暫定基準値として0.001mg/Lを提案しています。
<塩素で分解するミクロキスチン>
シアノバクテリアのミクロキスティスの群体  日本でも1984年以降、水道原水および浄水中のミクロキスチン-LRの調査が精力的に行われました。印旛沼、霞ケ浦、琵琶湖等での調査で湖水からは0.0002mg/Lから0.0008mg/Lが検出されましたが、それを塩素処理した浄水ではすべて検出下限値以下でした。この調査の過程で4種の毒素ミクロキスチンは、塩素処理によってほとんど分解し無毒になることが分かってきました。
 しかし、アオコの発生しやすい湖沼やダム湖の水を原水とする場合は、ミクロキスチンの監視が欠かせないものです。厚生省の水質管理専門委員会でも水道水質基準の見直し作業の中で、この毒素についても検討されています。

[写真]
シアノバクテリアのミクロキスティスの群体
(生活環境部 寺西 清)


調査研究紹介
マウスにおける肺のビタミンCレベルとオゾン暴露の影響との関係について

年報第31号より
環境保健部 深瀬治、荒木万嘉、藤原月美
疫学情報部 山本昭夫


 光化学オキシダントの主成分で毒性の強い大気汚染物質であるオゾンに対して、ビタミンCがその毒性を軽減する作用のあることは古くから知られています。我々は、オゾンとビタミンCとの関係に関する研究において、肺のビタミンCは大気レベルに近い低濃度のオゾン暴露によって減少するをこと、その減少は気道のビタミンCで顕著なことなどを明らかにしました。
 本実験では、肺のビタミンCレベルを高めたときのオゾン暴露による肺の障害および肺のビタミンCの変化について、マウスを用いて検討しました。肺の障害の指標としては、気道洗浄液中のタンパク量の増加度で評価しました。また肺のビタミンCレベルを高める方法としては、ビタミンCを腹腔内投与する方法、および予めオゾン暴露を行って肺のビタミンCの生合成を促進する方法の二つの方法を用いました。いずれの場合も、2ppmオゾン、4時間の暴露で肺の障害が抑制され、肺のビタミンCレベルが高いとオゾンの作用が軽減されることが認められました。さらに、オゾン暴露による肺でのビタミンCの減少の程度が大きくなりました。これらのことから、ビタミンCは肺で直接オゾンと反応することにより、オゾン毒性に対する軽減作用が発揮されると推察されました。


水系腸管病原性原虫Cryptosporidium parvumの検査法の検討

年報第32号より
微生物部 小野一男 辻英高 増田邦義
川村隆
神戸大学医学部 Shiba Kumar Rai 宇賀昭二
松村武男


 ヒト腸管に寄生する病原性原虫のうちCryptosporidium parvum ( C. parvum )は、自然環境水中のみならず塩素消毒された水道水にも存在することが明らかとなり、諸外国では本虫を原因とする水系流行が多く、現在最も危険度の高い水系病原微生物の一つとして注目されています。
本県においても本年(平成10年)3月に山崎町簡易水道原水より本虫が検出され、給水停止措置がとられました。1996年に埼玉県越生町で発生した飲料水中の本虫を原因とした集団下痢症を契機として、厚生省は同年に「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」をとりまとめ、その中で暫定的試験方法が明示されました。
 今回、牛糞から分離したC. parvumオーシストを用いて添加回収実験を行い、本試験方法の有用性と環境水中の本虫同定法の検討および牛糞便からの本虫の検出を行い、その寄生状況を検討しました。
 浄水および原水中の平均回収率は24.8%および6.2%と極めて低値で、本検査法の再検討が必要と考えられました。環境水中の同定法としては、蛍光抗体法とDAPI (4-6-diamino-2-phenyl-indole)を用いた蛍光法およびノマルスキー微分干渉装置付顕微鏡を用いた内部構造観察の併用が望ましいと考えられました。牛165頭の糞便からのクリプトスポリジウムの検出率は4.2%(7/165)で、そのうちC. parvumが4例、C. murisが3例で、C. parvumはすべて仔牛から、また、C. murisはすべて成年から検出されました。


研究所の動き《微生物部》

 公衆衛生の飛躍的な向上や各種の抗生物質の発見によって、一時期、感染症の克服は間近いと思われていました。しかし、過去20年くらいの間に、それまでは見られなかった病原体による感染症(新興感染症)や、以前に流行した感染症(再興感染症)が次々に出現して、われわれの健康を脅かしつつあります。代表的な新興感染症病原体としては、後天性免疫不全(エイズ)ウイルス、エボラウイルスを始めとする各種の出血熱ウイルス、ヤコブ病を起こす“プリオン”という感染性を持った蛋白質、関節炎や皮膚炎を起こすライム病病原体、胃潰瘍や胃がんの発生に関係があるピロリ菌、塩素消毒に抵抗性のために水道水を汚染して激しい下痢の原因となるクリプトスポリジウム、わが国で平成8年に全国的に大流行した腸管出血性大腸菌(いわゆる病原性大腸菌O-157)、香港で死者が出た新型インフルエンザウイルスなどがあります。一方、罹患率が徐々に減少していた結核は、この1,2年で増加傾向を示し、わが国ではもっとも重要な再興感染症として注目されています。
 微生物部では、県民の健康を守るために、公衆衛生的に重要な病原体についての各種の検査や研究を実施しています。また、上述のような新興・再興感染症に対しても、診断法の開発や導入を積極的に進めています。最近は病原体を迅速・正確に同定するために、それぞれの病原体に特有の遺伝子を、PCR法という方法で短時間に百万倍程度まで増幅させて検出するDNA診断法が多く行われるようになってきています。微生物部においても、腸管出血性大腸菌およびその他の病原大腸菌、平成9年に新たに食中毒病因物質として指定された小型球形ウイルス、結核菌、コレラ菌などについては、日常的にPCR法による迅速検査を実施し、感染症の拡大防止に努めています。


〔人事異動〕平成10年4月1日付

職名 転入者 転出者(転出先)
総務部長 大野昌春 堀川吉彦(生活科学研究所)
課長補佐 内容 修 谷 謙二(総合衛生学院)
主査 藤本忠信 藤原月美(西宮保健所)
主査 喜多博子  

Q&A 温泉とは?

 温泉と、読んで字のごとく温かい泉と理解されています。これとは別にに、古くから普通の水と区別できる冷たい水が地中から湧き出すことが知られており、この水は鉱泉と呼はれていました。
 現在では、これら2つの概念を含めた意味で定義されています。温泉とは、物理的・化学的に普通の水とは性質を異にする天然の水が、地中から地表に湧出する現象であり、その水を温泉水と定義しています。普通の水と区別する物理的性質は、温度や密度、電気伝導度で、化学的性質は、水に溶けている化学成分の質と量で区別します。
普通の水は、国によって違っていますので、温泉と認定するそれぞれの成分の値(規定値)も違っています。例えば温度ですが、日本や南アフリカでは、25℃以上で、イギリス、イタリア、ドイツ等は20℃以上で、アメリカでは21.1℃以上になっています。この原因は、普通の地下水の温度はその 地域の年平均温度より1〜4℃程度高いだけで、それ以上の温度を有する水は、普通の水とは違うからです。同じような考えで、化学的成分の規定値も国によって違っています。
 日本で普通の水と違う恩泉水の成分の規定値は、温泉法で定められています。




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